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2014年10月14日

明良は孝太郎を可愛がった

予想外に拒まれてみると、男親はその息子の抵抗に頼もしさを感じたが、女親には異国での心配事が増えるとしか考えられない。「ねえ、もし私が、高校卒業まで孝太郎をうちで預かりたいって言い出したら、明良くん、どんな顔する?」歩美から唐突にそう言われた時、明良はしばし無表情を貫いた。「それ、どういう顔よ?」「うーん」自分でも説明できない。越いタ食を一一人でとっている時たった。明良は居間を見回した。その床に汗臭いスポーツパッグがぼつんと観かれている様子が浮かぶ。どうしても嫌というわけではなかった。ただ、そう簡単に人の子を預かっていいものかも分からない。「うーん」と明良はもう一度吃った。明良たち夫婦に子供はない。作らなかったわけでもない。姉の息子を預かりたいという歩美の口調に、何かどろっとした感じがあるのも気になった。「義兄さんたちにはもう話したの?こと明良は様子を窺った。「お姉ちゃんにはなんとなく」「で、義姉さんはなんて?」「『明良さんが迷惑よ」って」姉妹の間では、ほぼ決まっている案件らしかった。「鎌倉は?」と明良は食い下がった。「遠いでしよ。

学校まで一一時間以上かかるもん」「でも、お義母さんたち喜ぶんじゃない?孝太郎と暮らせたら」「そりゃそうだけど、遠いでしょ」明良が歩美と付き合い始めた頃、孝太郎はまだ幼稚園に通っていた。歩美たちは姉妹仲が良く、交際中も、もちろん結婚してからも、月に一度は姉夫婦の家を訪ね、食事をするのが恒例になっていた。他人の子という気楽さもあって、明良は孝太郎を可愛がった。孝太郎は根が素直なのか、明良が簡単な手品を見せてやると、まるで奇跡でも目の当たりにしたように、「あっ」と呆然とする。その無防備な顔が明良は好きだった。「高校生なんて、もう子供じゃなくて男だぞ」と明良は呆れるように言った。どこまで意味が分かっているのか、「そりゃ、そうでしょ」と、歩美もまた呆れたように額く。その夜、十二時を回ったころに明良は歩美と連れ立って家を出た。日が暮れて気温が下がり、互いに厚手のダウンジャケットを着込んだ。


  


Posted by こころ at 17:45Comments(0)